蕎麦知識

庖丁と切りべら23本の御常法蕎麦の薬味懐石料理と箸のマナー通し言葉
もりそば1杯の栄養赤ワインそば?おそば屋さんの出前持ち晦日そば

庖丁と切りべら23本の御常法

切りべら23本の御常法と言われても、そば屋でもなんでもない人には解らないと思いますが、これはそば屋の庖丁仕事の約束事で、一寸幅を23本に切りなさいよという事です。
そば屋の庖丁仕事の基本は、まずそばの太さを均一に切ることにあります。切り終えた1本1本の太さが、一目見てそれとわかるほど不揃いであった場合は、茹で時間に影響がおよび、太いそばに合わせれば細いそばはゆで過ぎになり、細いそばに合わせれば太いものは早過ぎることになってしまいます。
一寸幅を23本に切るということは、3.03cmを23本に切るという事なので、そば1本の切り幅は1.3mmということになります。ただし、延し幅はそれより若干厚く延していますので、そばの小口は真四角ではなく、長方形になります。 これが、江戸のそば職人の基本的な仕事とみなされていたようで、そのうえに数段階に分けて細打ちの仕事がありました。現在もそばの太さは、この御常法の影響下にあり、一寸を20~25本の太さに切る店が多いようです。

ここで庖丁(ほうちょう)と言う言葉が出ましたので、その言葉の由来についてお話いたします。
私たちは、『庖丁』と言う言葉を、料理用の刃物をさすものとして何の疑いもなく使っていますが、実は、この言葉の由来には、料理に携わるものにとって深い教えが含まれています。 『庖丁』と言う言葉は、中国の古典『荘子』(そうし)に出てきますが、その中で『庖丁』とは、料理【庖(ほう)】を職業とする丁(てい)と言う名の名人を指しています。 この料理の名人と梁の恵王との問答が次のように記されていいます。 庖丁(ほうてい)、文恵君(ぶんけいくん)の為に牛を解く。手のふるる所、肩の寄る所、足のふむ所、膝のかがまる所、かく然 きょう然......。

原文を記しても少し解りにくいので口語訳を書きます。
庖丁(ほうてい)が文恵君(ぶんけいくん)の為に牛を料理した。庖丁の手が触れるところ、肩をゆるがすところ足の踏む所、膝をかがめるところ、あるいはバリバリと、あるいはサクリサクリと、刀がたてる音はさえわたり、音楽のリズムに合っている。桑林(そうりん)の舞(舞楽の曲名)もこのようかと思わせ、経首(これも大古の音楽の名)の楽章の演奏そのままである。これを見た恵王は、『ああ見事なものだ。技も奥義を極めると、こんなになれるものか』と感嘆した。

すると庖丁(ほうてい)は刀をおいて答えた。「私が願いとするところは、『道』であって『技』以上のものです。(中略)腕のよい料理人でも1年ごとに刀を取り替えますが、それは筋のあるところを切り裂くことがあるためです。普通の料理人は1ヶ月ごとに刀を取り替えますが、それは骨を無理に切って刀を折るからです。ところが私の刀は、今は19年になり、料理した牛は数千頭ですが、砥石からおろしたてのように刃こぼれひとつありません。もともと骨の筋と筋の間には隙間があり、刀の刃には厚みがありません。厚みのないものを隙間のあるところへ入れるのですから、広々としていて、刀を使いこなすのに充分なゆとりがあります。だから19年使い続けても研ぎたてのようなのです。 とはいえ、骨や筋が絡まり集まっているところにぶつかると、これは難しいと見て取り、心を引き締め、視力を集中し、手の運びを遅くし、刀さばきを慎重にします。やがて切り終えると、土の塊が地面に落ちるように、肉の山が骨から離れて落ちます。そこで私はホッとして刀を提げたまま少しばかり満足感にひたり、やがて刀を収めます」。 文恵君は言った。『なるほど、すばらしい。庖丁の話を聞いて、私は養生(ようせい)の秘訣を知ることができた』と。

養生とは、与えられた自分の人生を全うする根本原理を言うそうです。名人の到達した境地は、自然の理に沿うことでした。 この話から『庖丁』が料理用の刃物の庖丁をさすことになったのですが、包丁仕事の理想がまことに見事に語られた話だと思います。 特に庖丁使いにリズムが重要だと言う点に同感します。

参照:一茶庵 友蕎子 片倉康雄  手打ちそばの技術

蕎麦の薬味

『やくみ』は漢字で『薬味』書き表すように、『薬』としての効能と、蕎麦の『味の引き立て薬』としての働きをあわせ持ちます。
薬味の『薬』としての効能とは、次のような働きをさします。

1.口中を刺激して唾液の分泌をうながし、食欲を盛んにする。(食欲増進剤)
2.胃の粘膜を刺激して、その働きを活発にする。(健胃剤)
3.消化吸収を助ける。(消化剤)
食欲増進剤、健胃剤として作用するのは、大根・ねぎ(葱)・わさび(山葵)・唐辛子などの主に辛味成分と、七味にも入っている陳皮など苦味成分。消化剤として働くのは、大根に多量に含まれているよくご存知のジアスターゼです。

薬味の多くは、『露払い』的に口住をさっぱりさせて、蕎麦を美味しく感じさせたり、あるいは『口直し』的に、口中に残る蕎麦と汁の味をいったん消して、最後まで飽きずに蕎麦を楽しませてくれる、といった働き方をします。 それに対して、種類は限られてきますが、蕎麦そのものの味をよくする 文字どうり『味の引き立て役』として働く薬味もあります。

【大根】
ごぞんじのように、大根には消化酵素ジアスターゼが多量に含まれています。
ジアスターゼは、デンプンその他の多糖類を単糖類にまで分解する酵素で、胃壁からすぐ吸収できる状態にしてしまいます。
さらに、大根には脂肪分解作用もあるという説もあります。
デンプンなどを糖に分解する作用は『糖化』といいますが、大根の場合この働きがかなり強いものであるようです。
炊き上がった御飯の荒熱が取れたところに、大根おろしをかけておくと、御飯がとろとろのおかゆのようになってしまいます。
これは、御飯のデンプンが糖化されて起こる変化ですが、同様の現象は大根おろしの絞り汁にそばがきを細かくちぎっておいても起こります。
地方ではついたお餅に大根おろしをかける食べ方がありますが、これもジアスターゼの糖化力を利用し甘さを引き出した食べ方ですし、その餅を切り分けてかすのついた包丁に、おろしの汁をつけると汚れがたちどころに溶けてしまいます。
大根おろしの糖化力とは、それほどまでに強く、たちどころにデンプンを糖化してしまいます。
その結果、胃におさまってからの消化剤としての働きはもちろんそなえているのですが、その前に口中で蕎麦の味を引き立てるのに絶妙の働きをします。 蕎麦の甘味をグンと増すのです。
薬味の薬としての効能は、使用料を微量にとどめた場合に言える事であって、使いすぎると害になるものもなくはないのですが、大根だけはいくら多量に使ってもだいじょうぶなのです。

【ねぎ(葱)】
出会いの香りとしては、ねぎ(葱)くらいよいものはないと思います。
ねぎの香りと辛味は、ほどよい程度のものであって、口中を快く刺激して食欲をうながします。
今でこそあまり名前が聞かれなくなりましたが、関東では千住ねぎ・深谷ねぎ・宮ねぎなどが使われていたそうです。
弊店では、嫁の実家のおばあちゃんが一生懸命作ってくれた青ねぎや、地元のものを使っています。

【わさび(山葵)】
わさび(山葵)は、薬味としてもはや定番となってしまいました。
むかし蕎麦の値を高く売るために始まったもののようで、今でも本わさびを売り物にして付加価値をつけようとしているそば屋も少なくありませんが、松尾芭蕉がわさびの使用は「本意なけれ」嘆いたように、わさびは蕎麦の風味を殺してしまいます。
薬味としては、刺激が強すぎるのです。
そば好きの中には、わさびを嫌う人が少なからずあるのもそのせいかもしれません。
勿論 わさびを汁に溶いてしまったら、そばも汁も殺してしまいます。
しかし、用い方を変えれば、わさびも生きてきます。わさびを口直しとして使うのです。
そばを二口・三口と食べたら、箸の先にわさびをちょっとつけて舌にのせる。
そして、舌の上に残る汁やそばの味を、わさびの香りでいったん消して、それからまた新たにそばを味わう。
こうして合間、合間にわさびを使い、いわば舌を洗った状態にして食べ続けるなら、最後まで飽きずにそばを堪能できるのです。

【唐辛子】
辛味の利いた薬味には、もうひとつ、唐辛子があります。唐辛子は古来、健胃剤としても重宝がられてきました。あの強い辛味は、胃袋を刺激してその働きを活発にし、食欲を盛んにします。そばの薬味としての効用も、おおむねその線にあるのですが、わさびや大根、ねぎと違い唐辛子の辛味は熱に強く、温かい「種もの」に好んで使われます。
唐辛子には、そばそのものの味を引き立てる働きはありませんが、そのかわりに、強烈な辛味によって料理のいやな癖を消してしまいます。
以上のような作用を、香りのものをいろいろ合わせることにより一段と効果的にしたのが、日本橋・薬研掘りに始まった「七味唐辛子」です。唐辛子・胡麻・麻の実・けしの実・山椒・陳皮(みかんの皮を乾したもの)または陳皮ゆず・青海苔などを粉末にして混ぜたもの、でこうして名をあげてみれば分かるように、いずれも香りのよいものばかりを集めてあります。

【その他】
その他の薬味として出石では、卵・山芋・長芋などをお出ししますが、それは薬味というよりも「種もの」の種としての役割が大きいように思われます。卵なら月見そばや卵とじそば。山芋・長芋なら山掛けそばといった具合です。
お客様によっては、最初から最後まで薬味をお使いにならず、そばと汁だけで召し上がられる方もいらっしゃいますが、全部一度に入れて食べるのが好きなんだとおっしゃる方もいらっしゃいます。また、一皿目はねぎ、二皿目は長芋、三皿目は卵も入れてと順々に味を楽しまれる方もあります。
薬味のうんちくをあれこれと書き並べましたが、十人十色 お客様が美味しいと思われる食べ方が一番なのであって、こうこう こういう食べ方をしなさいよというつもりは毛頭ありません。しかし、知識として知って頂いておいて損はないし、ぜひまた一度お試しいただき、今までにないそばの味を発見していただいたなら幸いと思う次第であります。

参照:一茶庵 友蕎子 片倉康雄  手打ちそばの技術

懐石料理と箸のマナー

忘年会から新年会へ胃が悲鳴をあげている方も多いかと思います。私の胃に口があったら、きっと『ええ加減にせえよ』と突っ込みを入れられるんではないかと思うぐらい酷使しています。
私の住んでいる出石町でも、いろんな会や団体がありその会の数だけ宴会も増えていきます。小さな町ですので、だいたい場所も限られ口にするものも似かよったものになりがちなのですが、先日『懐石料理』を食する機会に恵まれました。そばの懐石料理なども、いずれは作ってみたいと思っていましたので、この際 調べてみようと思い本を開きました。

流儀などにより、いろいろな約束事やかたぐるしいマナーなど、ちょっと遠い世界のものと思いがちですが、できるだけ簡単に紹介してみます。
もともとのルーツは、禅宗の修行から生まれた食事で、懐石とは僧侶が温めた石を懐に抱いてお腹を温め、一時的に空腹をしのいだことからきているそうで、これを千利休がわび仕立てに工夫して茶道に取り入れたものが懐石料理の由来とのこと。そもそも、茶会で濃茶を頂く前に、亭主が客の空腹を癒すために出す食事のことを言うそうです。

それでは懐石料理のメニューと言えばどんなものでしょうか?
一般的には、一汁三菜つまり汁(一汁)と向付け・椀物・焼き物(三菜)に箸洗いと八寸がついて、湯桶と香の物でしめくくるものだそうです。

次に、懐石料理のコースの流れを箇条書きにしてみました。
【先附け】料理の前にお酒と出される、いわゆるお通しのこと。
【飯と汁】炊き立てのご飯とみそ仕立ての汁が出ます。
【向付け】飯と汁といっしょに出てきます。お造りなどが一般的。折敷の向こう側に置くことから、向付けと呼ばれます。
【煮物碗】一番のごちそう。しんじょや旬の野菜などが、美しい塗りの碗に入って出されます。
【焼き物】旬の魚を焼いたもの。
【預け鉢】一汁三菜の後、亭主の心入れで出される場合があり、炊き合わせや和え物などです。
【箸洗い】ごく少量の碗種が入った白湯。この後の盃事に向けて、口中を清めて心を改めます。
【八寸】八寸(24.2cm)四方の盆が転じた料理の名称。海の幸・山の幸が1種類ずつ盛られます。お酒を楽しむ懐石のハイライト。
【強肴】亭主がさらにお酒をすすめる際、強肴として鉢物などが出される場合があります。
【湯桶と香の物】ご飯のお焦げに湯をさしたものに、漬物がついてきます。

あとおまけとして、やってはいけない箸使いも書いておきます。
【刺し箸】はさみにくい料理に箸を突き刺して、フォークのように使うこと。せっかくの料理を粗末に扱うような、品のない動作です。
【移り箸】一度箸をつけたものを食べずに、他の料理へ箸を移すこと。料理が美味しくないような印象を与えてしまいます。
【ねぶり箸】料理を食べるとき以外に、箸をくわえたり、なめたりすること。箸で遊んでいる幼稚な感じがして、不快感きわまりなし。
【かき箸】器のふちに口をあてがい、箸でかき込んで食べること。料理は最後まで、箸にとって口に運びましょう。
【こみ箸】口に食べ物をいっぱいつめて、箸で押し込むこと。食べ物に飢えているような、悪いイメージを抱かれます。
【迷い箸】あっちの皿こっちの皿と、あちこち箸を動かして迷うこと。大皿から取り分ける場合は、特に気をつけましょう。
【さぐり箸】器の下のほうに箸を入れて、中をさぐるようにすること。食べ物を確かめているようで、作った人に失礼です。
【渡し箸】食事の途中や食べ終わった後、器の上に橋を渡しておくこと。汚れた箸先が目に付きます。箸は必ず箸置きに。
【寄せ箸】遠くにある器を箸で引っ掛けて手元に寄せること。大切な器やテーブルを傷つけることにもなりかねません。
【なみだ箸】箸先から、ぽたぽたと汁をたらすこと。だらしない印象です。汁物をいただいた後は、箸先の水気をきって。

とりあえず全部やってしまった経験のある私は、箸使い0点と言ったところでしょうか?

通し言葉

皆さん『通し言葉』というのをご存知でしょうか?
色々な業種で専門的な言葉がありますが、そば屋にも古くから使われてきました。と、えらそうな事を言ってはみたものの、私もぜんぜん知らないような言葉がたくさんあるのですが...。少しご紹介してみます。
様々な材料を使い、工夫をこらした売り物の中から、お客様のご注文の品が何で、いくつ、どのような組み合わせで、何時出したらよいかをわかりやすく手短に伝えるのが『通し言葉』で、注文を伝えるのを『通す』といい、厨房ではその通し物(ご注文)に合わせて調理にかかります。

その基本は、『つき』『まじり』『かち』『と』をはさんで数を表します。
『願います』『お一人さん』(または二・三・四...)『ご新規』などで注文のしめくくりをし『お燗付き』『お声がかり』『おかわり』『まく』で出す時期を指示します。
『台がわり』『総うどん』『おか』『きん』『さくら』『台ごみ』『おこわいところ』などで材料、分量、調理方法を指定するようになっています。
『もりがついて...』とつきという言葉の前に通された品物の数は、常に1個を表します。その後にほかの出物の数と名前が通されますが、その数は『つき』の前のもり1枚も含まれた合計を表しているので、後から通された品物は全体の数より1個だけ少なくこしらえなければなりません。
『まじり』は2個を表すので『かけまじり7杯とじ』は、かけ2杯にとじ5杯の合計7杯のことです。これは『かけがまじって7杯とじ』とも通されます。
『かち』というのは、2種類の品物が合計5個以上の奇数注文され、片方が他よりもひとつだけ多い場合、多いほうを先にして『てんぷらがかって7杯かも』(てんぷら4杯、かも3杯)と通され、偶数で両方とも同じずつのときには『と』が使われ『とじとまきで4杯』(卵とじ2杯、花巻2杯)といいます。
『まく』は出物が3種類以上に渡ったときに『まくで』と続けてご一緒のお客様ですからまとめて出してくださいという意味に使われ、一緒に通しても二組のお客様からのご注文をまとめたものであったら、『もり1枚は離れです』と続けて、仕事場の都合で別に出してもよいことを知らせます。
『お燗付き』とか『御酒がついて』といわれたら、お酒が出るのですから『お声がかり』にしたほうがよいでしょう。
『おか』とは岡のことで岡にあがっているから水(汁)につかっていないという意味になり『岡でてんぷら』と通されるとてんぷらだけが別に岡(皿)で出されることでした。
基本さえわかればどのようにでも応用がきくようになっており、なかなかうまく考えたものですが、複雑なものになると

『鴨と天ぷらが勝って7杯おかめ、天ぷらはうどん、そば、幕でかけがついて3杯まきととじ、とじはうどんで願います』
さて何の注文?????


そばの技術-有楽町更科覚え書より

もりそば1杯の栄養

今回は、もりそば一杯の栄養についてお話します。

「おそば屋さんは幸せだ。おそばくらいいい食品はない。栄養学的に見ても完全食だし何といっても変なものが入っていない自然食だ。そば屋のおやじで血圧が高いの体の調子が良くないだのいっているやつは、自分の店のそばを食べていない証拠だ。そういういい物を売ってお客様に喜ばれ,自分も食べていればこんなにいいことはない。」
これは、さる研究機関の権威ある先生のお話だそうです。

本当におそばは自信を持ってお客様にお勧めできる栄養食だそうで、小麦よりそばの方が、同じ目方で10倍も栄養上の価値が高いのだそうです。 カロリーは同じ100gでしたらお米とほとんど変わりません。お米100gというと軽く1食分です。そば粉100gは210gくらいのもりそばになります。 ところが、人間の体を維持していくのに必要なたんぱく質はおそばのほうがずっと優れています。たんぱく質は食いだめがきかず、毎日食べなくてはなりませんが、バランスよく摂取しないと余分なものは利用されずに無駄にすてられてしまいます。

たんぱく質が効率よく含まれているかどうかを表すのに『たん白価』という数字を使います。鶏卵のたん白価は100でこれが完全とされており、100に近いほど良質な食物とされます。 おそばのたん白価は81、お米は72、小麦粉は47でぐっと落ちます。含まれる分量もおそばには100gあたり10g、お米は7gです。

また、そばに含まれるビタミン類も特徴的で、ビタミンAおよびCはほとんど存在しませんが、ビタミンB1・B2が多くお米や小麦の約2倍になります。また、かつてビタミンPと言われ、毛細血管を強化して脳出血や出血性諸病の予防効果があるとされていた『ルチン』が少なからず含まれていることも特筆できます。 子供さんたちの成長のためにも、パンやラーメンよりも、そば粉のたくさん入ったそばの方がはるかにいいし、安心して食べられる自然食と言うことになります。 しかし、おそばはすぐにお腹がすきます。腹持ちが悪いので敬遠される方もいらっしゃいますが、すぐお腹がすくのは消化のいい証拠です。

数字で表しても、いまいちピンとこないと思ったので、『そばと比叡山の荒行』について紹介し、そばの栄養食品としての重要性を認識していただきたいと思います。
比叡山での難行苦行は決死的なものであり、中でも一般的に知られるようになった有名な荒行に『千日回峰行』というものがあります。千日といっても連続して3年と言うのではなく、7年かけておこないます。

まず始めの3年は、1年のうち100日だけ『行』が許され、1日30km歩き255ヶ所を回ります。3年間同じことを行い体を慣らすのです。続く2年間は、1年間に200日、はじめの3年間と同じような修行をおこないます。
5年が終わると00日になり、この段階で9日間の『断食・断水・不眠・不臥の行』に入ります。これを修めないと次の行に移ることが許されないためです。

これを終えて6年目は、1年間に100日の行となります。ただし、1日に歩く距離は60kmと倍増し、巡拝する箇所も266箇所となります。最後の7年目は再び200日となり、801日から900日は巡拝が300箇所・1日84kmのコースとなります。
残りの100日は、当初の1日30kmにもどり、からだを徐々に平常に戻します。
合計1000日・全長40000kmにもなるのです。これは、ほぼ地球1週に当たる距離です。1日にこれだけの距離を歩くとなると睡眠時間は非常に短くなり、7年目の1日84kmの場合などは、夜中の12時に起きて歩き始めるため、睡眠時間はたった2時間です。

次に、700日後に行う9日間の『断食・断水・不眠・不臥』の行ですが、これは人間が断食・断水によって生きられる生理学的限界が3日と言う定説から見ても、苦行中の苦行と言えるのではないでしょうか。
そこで、この行に入る前にトレーニング的なものとして『五穀断ち』と言う『前行』があるのですが、これは100日間五穀を食べてはならないと言うもので、米・大麦・小麦・大豆・小豆を一切断つといったものです。

当然のことながら動物性の食品は御法度でしたので、五穀に入らない『そば』がここで登場するのです。そばと少しの野菜でからだを保つこの100日間が、次のもっとも過酷な荒行である『断食・断水・不眠・不臥』の体力作りになっているのではないかと思われます。
このように比叡山の回峰行において、『そば』はすこぶる重要な役割を担っていると言えるのです。

赤ワインそば?

ちょと前になりますがボジョレー・ヌーボーが解禁になりました。
今年はまだ打っていないのですが、ここ何年かこの時期になると『赤ワインそば』を遊びで打ったりします。
そば粉は引きぐるみのものではなく、『さらしな』という真っ白い粉を使います。
(なかなか手に入らないため、1番粉で打つことが多いのですが)
引きぐるみの粉とは、1番粉~3番粉まですべて引き込んだものを言います。
さらしな粉や1番粉はそばの身の中心部分の粉で、『でんぷん質』が主成分となるため『田舎そば』のように香りをよく感じると言うものではなく『変わりそば』にも使われます。
2番粉・3番粉になると、主成分が『でんぷん質』より『たんぱく質』となってきます。
あと灰分も多くなり、このため香りや色がついてくるのです。

おそば屋さんの出前持ち

右の写真、なんだかお分かりでしょうか。
そうなんです。これはおそばやさんの出前持ちの写真なんです。決して私ではありません。
昭和初期のものですが、あまり高く積み上げて、ビルの谷間を走り回るので、当時の新聞や雑誌によく取り上げられたそうです。
残っている写真で一番たくさん持っているものは,1番下に肩当として『もちや』を2枚重ねた上に大台より大きかったのでバカ台と呼ばれた出前用の長方形の台を乗せ、その台に『もちや』を2列に7段小計14枚、さらにその上に12枚、代のあいているところに八合入りの徳利4本を置き、またふたの台をして今度は半サイズの『もちや』6段に徳利4本、総計で『もちや』28枚をかついでいたそうです。
この『もちや』というのは縦39cm、高さ7.5mmの底のあるしっかりした朱塗りの箱で、空でも1枚1kgですから、そばが入ると3kgにもなり、28枚で90kg以上になります。高さは7.5cmのものが23段ですから1.8mm、地面かだと3mは楽にありました。
一度かつぎ出したら、肩が痛いからかつぎ変えるなどということは、到底できませんでした。

晦日そば

もうすぐに『年の瀬』ですが、皆さんは なぜ『年越しそば』を食べるか御存知でしょうか。
今でこそ、『晦日』は『大晦日』だけのようで、12月31日しか蕎麦屋は忙しくありませんが、昔は毎月晦日(月末)ごとにそばを食べる習慣があり、蕎麦屋は忙しくさせていただいたようです。

大晦日に『そば』を食べる由来については、いろいろ言われております。金箔屋が金を打ちのばす時に、その台にそば粉をすり込んでおくと打ち切れせずによく延びると言われているところから『金が切れないんだ』とか、飛び散った金粉をはき寄せる時に、そば粉を撒いておさえるので、『金を集める』効果があるといった欲張った理由や、そばの実は三角で、昔から三角のものは厄除けになると言われていることからこれを食べてけがれを払い、息災を祈るのだと言う縁起をかついだ説まであります。

この日になるとそば屋が無精でお客様にほとんど御説明しないのに大勢見えてくださるのは、誠にあり難い限りですが、できれば毎月晦日に『そば』を食べるというような習慣を復活させて、できるだけ『そば』という食品を身近なものにしていただきたいと思います。
なぜなら『そば』は、完全に近い栄養食・自然食・ダイエット食なのですから...。